完読No.75 みんな行ってしまう マイケル・マーシャル・スミス 著 創元SF文庫

doradora05112005-10-03

「スペアーズ」「ワン・オブ・アス」で知られる鬼才作家M・M・スミスが贈る、哀愁と郷愁に満ちたSFホラー傑作集。小品ながら忘れがたい味わいを残す表題作を巻頭に、奇跡の医療用ナノテクがもたらした人類の意外な終末「地獄はみずから大きくなった」、田舎町に暮らす不思議な絵描きを巻き込んだ事件を描く英国幻想文学大賞受賞作「猫を描いた男」、近未来の巨大ハイテク・テーマパーク兼養老院での奇妙な冒険劇「ワンダー・ワールドの驚異」まで12編を厳選して収録。

以下ネタバレ
私は「ダイエット地獄」と「家主」と「見知らぬ旧知」が印象に残った。
「ダイエット地獄」は、いわゆるバカ話。中年になってウエストのサイズが増えてきたことを気にした主人公が、ダイエットを決意。でも、運動や食事制限は嫌だ。それでタイムマシンを作る。幾ら食べても太らなかった、若い頃に肉体を戻す。精神はそのまま。実験では、若返りが止まらず卵子まで戻ってしまう。どこかで制限をしないと。実験動物は近所のペット。何度も実験に失敗しているうちに、食べ過ぎて前より太ってしまう。近所のペットもあらかたいなくなり、とうとう自分をタイムマシンへ。さて、結末は。10ページ強の小品。
「家主」は、ホラー系。世にも奇妙な物語風の話。自分の居場所がない主人公が徐々におかしくなっていく様が怖い。一人暮らしの部屋で、動かした覚えの無い物が、動いているんじゃない?と思う時の恐怖。
「見知らぬ旧知」。この作品を一言でいいあらわすと原題の「Foreign Bodies」がベスト。
親友の彼女が、前に自分の付き合った女性に似ている。いや、似ているなんてもんじゃない本人そのもの。しかし、どうしてもその女性の名前を思い出せない。逆に、親友の彼女は自分の事を詳しく知っている。いったい彼女は何者?M・M・スミスさん、あなたは女性に酷い目にあった?
全体的に暗い話が多い。あまり読まないタイプの話。「スペアーズ」の世界観を期待して読むと肩透かしをくらう。M・M・スミスの別の魅力に魅せられると思う。