完読No.88 東洲しゃらくさし 松井 今朝子 著 PHP文庫 


裏表紙

寛政の改革の嵐が去り、江戸の町に活気が戻ったころ、上方の人気歌舞伎作者・並木五兵衛は江戸下りを決意する。五兵衛に先立ち、大道具の彩色方・彦三が大阪を後にした。江戸芝居の様子を報せるためでもあったが、待ちわびる五兵衛の許に届いたものは、東洲斎の雅号を付した幾枚もの版摺絵であった・・・。謎の絵師・写楽の正体と、芝居という虚と現実の狭間に生きる男たちの哀歓を描く力作。

以下ネタバレ
いやぁ〜、面白かった。単純な「写楽は誰?」の謎解き小説では無い。逆に謎解きではない所がいい。主人公は写楽と思わせる彦三という大道具の彩色方(舞台装置に色を塗る一介の職人)なんですが、彼を取り立てた並木五兵衛や蔦谷らその時代に生きた様々な人々が生き生きと描かれている。広範な知識を元に想像力を縦横無尽に広げて江戸文化(主に歌舞伎)の表裏を読者の前に作り上げてくれた。最後に、チョイ役で出ていた人々が、後の何某と書かれていた。それを読むと思わずニヤリとしてしまう。