イケニエの人 大人計画 世田谷パブリックシアター 作・演出:松尾スズキ

★★☆☆☆
本公演では約3年半ぶりの松尾作品。ファンとしてはいやがうえにも期待が膨らみます。初日から約2週間。聞こえてくる評判はかなり悪かった。でも、これは松尾氏が今までとは違う何かにチャレンジしてそれがファン(観客)に受け入れられなんだろう、と思っていた。
違っていました。評判通りでした。

以下ネタバレ。

見終わった後、あ然としました。これで終わり?えっ!思わず声が出てしまった。
確かに時間が無いとは聞いていた。初日まで後わずかという時点で脚本が完成していないのも聞いていた。しかし、そのままの状態で公演が始まっていたとは・・・。
完全に未完です。必ずしもきちんと結末をつけるのがいい芝居とは思わないけど、どうとでも考えられる結末も好きだけど、でもこの作品は未完です。
なので評価のしようが無いです。私は一観客、一ファンなので色々と言う権利は無いけど。
何だか悔しかった。カーテンコールの無い大人計画の公演など観たくなかった。
今年は初映画監督、初長編小説と私にとっては松尾スズキ度が非常に高い年でした。
期待するじゃないですか本公演。でも、残念。
愚痴っても仕方が無い、気を取り直して「イケニエの人」を再考してみたい。
この作品で松尾さんが言いたかった事は何?温泉が出なくなってしまった温泉宿。バスクリンを入れる従業員。遺跡発掘所にありえない物を埋めて教科書を書き換えさせてしまった男。駅の階段でスカートの中を手鏡で覗いてしまった役人。これらのどうしようもない人々の事を書きたかったんだろう。そしてその象徴的人物として乙骨(おつこつ)という人物を作った。その乙骨をドキュメンタリー作家(自称)の日鮒(ひむら)が2年間密着取材。日鮒は病気で乳房が無い。そして日鮒が撮影した映像は全て使えない。何故なら乙骨は上着に必ず「キチガイ」と刺繍しているから。放送される事の無いドキュメンタリーを撮る日鮒。日鮒によりイケニエにされた人、乙骨。本当にイケニエになったのは日鮒?
この二人を中心にスペースシャトル発射基地建設により温泉が出なくなってしまった温泉宿(旅館フカロク)で話は進んでいく。旅館フカロクの乗っ取りを画策する巨大外食産業オーナー不入斗(いりやまず)。その部下である後味(あとあじ)。後味(あとあじ)の息子の余座(よだ)。後味と余座は旅館フカロクの乗っ取りを失敗させ不入斗の失脚を狙う。
旅館フカロクでは八部島バビロンの研修が始まる。ビリー(支配人候補)は300万払って支配人候補として研修に参加。その恋人雨利(あめり)とは色々ともめている。チワワのブリーダーを始めるが失敗。アイフルに借金して巻き返しを図るがギャンブルで更なる借金を、その度にヤクザに抱かれる雨利。そんな雨利を詰問するビリー。結局ビリーは雨利を殺してしまう。そして度重なる交配により凶暴な犬と化したチワワ。旅館の天井裏で飼っていたが、次々に従業員を殺してしまう。他にもエピソードはあるんですが、全部書いても仕方ないのでストーリーを追うのはこれぐらいにします。
実は、内容的には面白いと思ってます。でも、全てが中途半端な状態で終ってしまうんです。未完だから。仕方ないか。でも、残念。
個々の役者達は頑張ってました。
阿部サダヲ(ビリー)と宮藤官九郎(雨利)は相変わらず面白い。阿部サダヲのアワアワ感は最高でした。宮藤官九郎は女装すると可愛く見えるから不思議です。
皆川猿時(乙骨)と田村たがめ(日鮒)。皆川猿時は普段より抑え目な感じがした。「デブのくせに」と言われて反撃するシーンが可笑しかった。
荒川良々(不入斗)と伊勢志摩(後味)、近藤公園(余座)。
荒川良々のあの服はずるい。反則。最後の顔見世で一人はしゃいでいたのは何故?彼的には満足いのいく演技だったのかな。
伊勢志摩はこれまた反則。あれがあの位置はまずいでしょう。しわを伸ばしてもあの位置には来ません。
そして近藤公園、普段の優しい感じの役とは違い、ワイルドな役柄でした。こう言う役も出来るのね。
池津祥子(松野明美)、顔田顔彦(巻貝 まきがい)、宮崎吐夢(ランス)、猫背椿(小春)、宍戸美和公(青緑 フカロク 女将)、村杉蝉之介(波目 支配人)。
池津祥子猫背椿はいいぬぎっぷりでした。
ランス(宮崎吐夢)は明美池津祥子)と人生をかけたSMをやっている最中。本当は日本人なのにアメリカ人になりきるSM。地が出ると殴られる。
平岩紙(気子)、松尾スズキ(手数)。
平岩紙はカンフー暦10年、売春暦5年の設定。手数の亡くなった娘から腎臓移植を受けた乙骨のために用意された娼婦。カンフーシーンはかっこよかったです。
最後に松尾スズキさん。演技は相変わらず可笑しかった。いつもより出番が少ないのは気のせい。
この芝居には3箇所?ぐらいミュージカル風なシーンがあります。これは良かったです。
今回は観客をイケニエにする芝居だったのか。