完読No.68 砂漠で溺れるわけにはいかない ドン・ウィンズロウ 著 創元推理文庫


裏表紙

無性に子どもを欲しがるカレンに戸惑う、結婚間近のニールに、またも仕事が!ラスヴェガスから帰ろうとしない八十六歳の爺さんを連れ戻せという。しかし、このご老体、なかなか手強く、まんまとニールの手をすり抜けてしまう。そして事態は奇妙な展開を見せた。爺さんが乗って逃げた車が空になって発見されたのだ。砂漠でニールを待ち受けていたものは何か?シリーズ最終巻。

シリーズ第一弾「ストリート・キッズ」が「このミステリーがすごい!1995年版」海外編ベスト2位でした。その頃から読んでいるので約10年。この本は1990年代にはすでに出版されています。でも、全てが翻訳されるまでに約10年かかってます。長い。全ては翻訳の東江一紀さんのせいです(本人も解説でそう言ってます。)。それはさて置き、最終話も面白かったです。ミステリー、サスペンス、の要素より、コメディーの要素が強い作品です。登場人物それぞれが、真剣になればなるほど滑稽に思える。緊張するシーンでも、どこか可笑しい。映像化するとその面白さが際立つでしょう。特に八十六歳の爺さんがいいです。殆どしゃべってます。尤も、アメリカンジョークなので私には今一面白さが分からないのですが、行動が面白いので充分でしょう。ニールの婚約者カレンもいい味出してます。結婚間近の彼女の頭の中には、子どもを作ることしかありません。一見冷静ですが、カレンダーを見ながら排卵日を確認し、勇んでニールを訪ねていくシーン等は可笑しさ半分、男性としては恐怖も半分、です。ニールはヤク中で娼婦の母親が誰の子どもだか分からずに産んだ子供です。出生と子ども時代はかなり悲惨です。このシリーズではその時代のことは殆ど書かれていないし、ニールも殊更それに対して否定的な言動をしません。それはグレアム(隻腕の探偵)と出会い朋友会の雇われ、教育を受け、探偵技術を学び、トラブルを解決していく、その過程でどうでもよくなってしまったからでしょう。ニールの根本的な行動原理は怒りや社会に対する反発心ではなく、お返し?的なものだと思います。そしてグレアムに対する圧倒的な信頼感。通常の父子関係より、より緊密な関係を築いています。表面的には多少反発してますが、ピンチの時ほどその信頼感は絶対的なものとなり、ニールの行動を後押しします。ニール自体はそれ程魅力的な人間には書かれていませんが、それは出自や育った環境のせいではなく、かれのパーソナリティーのせいだと思います。彼はどういう家庭に生まれてもこうだったでしょう。まとまりがつかなくなってしまった。この本も面白いですが、未読の方は「ストリート・キッズ」からシリーズを全て読むことをお勧めします。面白いシリーズです。
1.ストリート・キッズ
2.仏陀の鏡への道
3.高く孤独な道を行け
4.ウォータースライドをのぼれ
5.砂漠で溺れるわけにはいかない