No.29 解ってたまるか! 劇団四季 自由劇場 

http://www.shiki.gr.jp/applause/wakatte/index.html
★★★★☆
以下ネタバレ
ひょんな事から昨日、急に観に行くことになりました。
☆は3つ半ってところかな。
結果的に長くなってしまった。
>>1968年(昭和43年)2月。1人の男がライフルで暴力団関係者2人を射殺し、温泉旅館に16名の人質をとってたてこもった。
金嬉老事件の事です(http://www.alpha-net.ne.jp/users2/knight9/kimuhiro.htm)。dora0511補足)
 日本中を震撼させたこの事件のわずか3ヶ月後、日本文学界の重鎮・福田恆存氏が劇団四季のために書き下ろしたのが、この『解ってたまるか!』。上記ライフル魔事件を題材にしつつも、描いているのは日本社会の愚かさ、矛盾。乾いた笑いに包まれつつも、痛烈な社会風刺作品となっている。
彼は言う。
「事件自体が、自分で台本を書き、演出し、自演したというくらいうまく出来ている。まるで作品のよう。(中略)日本の社会的風潮を明確に浮かび上がらせたということに興味を持った。日本社会の恥部をそのまま抉り出した」
「(もっと抉り出したいという思いから、本当のライフル魔以上に)本質的で、しかも実際に存在しうるようなものを作り上げ、鋭い分析力を持つ超リトマス試験紙を作り上げて、それを日本の社会という液の中に入れてみたわけなんです」(初演プログラムより)
前科者の子として差別を受けてきた村木明男という男が酔払い運転手二人を射殺、アメリカ大使館横のホテルに人質をとってたてこもり、「殺人未遂と同じ酔っ払いの犯人を殺したのは正当防衛である」と、この殺人の正当性を認めることを要求。大量のダイナマイトを持った村木の要求をのむべきか、彼の要求に振り回されて右往左往する警察。一方、人質の中でもゴマをするものや、男性がふがいないと村木からライフルを奪い、脱出を試みるツワモノの女性もいる。
当初、ヒトラーが実は日本で生きていたという仮定をもとにした『総統いまだ死せず』を新作として発表する予定でいた福田氏だが、この事件が起こったことで、急遽『解ってたまるか!』を書き上げた。当時、社会的に大きな話題となっていた事件だけに、タイムリー、かつ深部をえぐったこの作品の上演は、大きな話題を呼んだのだった。(『総統・・・』は1970年に劇団四季が上演)ちなみに、「キティ颱風」など様々な戯曲を生み出した福田氏だが、初めて実際の事件を即時的に劇作化したのはこの作品なのである。
事件勃発後間もない上演からはや37年。しかしながら、先に書いたとおり、この作品は描いているのは実際に起こった事件ではなく、人間の深層心理、そして社会という大きな枠の中で生きる人間たちの集団心理である。異常な状況下、ライフル魔とその人質、そして警察や文化人グループなど様々な人間模様の中でうずまく欺瞞やエゴ、本音や建て前がなんとも絶妙に、リアルに描き出され、かならずや抱腹絶倒の嵐となるはず。
時は経ったが、「(そう簡単に人のことが)わかってたまるか!」という思いは、現代の日本社会に生きる人間たちの心の中で、年を追うごとに強まっている感情なのではないだろうか。そんな我々が今、村木のとった行動を、考えを、そして彼をとりまく人間たちの心の奥底を、どう捉えるか?
人間の心の奥をのぞくような久方ぶりのステージをぜひ、自由劇場で体験してほしい。