No.8 セルロイド THE・ガジラ ザ・スズナリ 

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★★★★☆
前作「わが闘争」で、強烈なパンチを喰らった感があった鐘下作品。今回はどうなるだろう?どんな作品なんだろう?楽しみにしてました。今回は会社の後輩(芝居好き)を引き連れて観劇。結果。芝居自体は非常に良かったです。舞台装置、照明、役者陣、演出。全部良かった。でも、星5つにしないのは、脚本に関して、私自身が悩んでしまったため。
以下ネタバレ
詳しく話す前に、このお芝居を考える上で、私はこの芝居を3段階に分けました。
まず。もっとも表層のテーマ、メインで語られたテーマ、虐待。それも虐待を受けたものが、また虐待をする。と言う、負の輪廻。アメリカ辺りだと既に社会問題化してる。日本でも、もうそろそろ語ることを避けて通れない感じになっている。その事が、まず一つ目。でも、観終った後、鐘下さんはこれだけを言いたかった訳じゃないんではないか?そう感じた。一つ目の話だけでも十分に重く、深く、大事な話なんだけど、もう既に色々と作品があるんですよ。語っている作家がいる。それを鐘下さんがわざわざそのためだけに書くだろうか?そんな点から考えた二つ目。
彼女は両親から兄から、虐待を受けていなかった。とする。なのに自分の子供は虐待死させてしまう。何故?そう考えると、この芝居が全く別の様相を表す。幸せに育ったはずの女性が、幸せそうな結婚生活を送っていたと思われていた女性が、我が子を殺してしまう。理由が分からない。その恐怖。
そして更に三つ目。両親から、兄からの虐待を受けていないのは二つ目と同じ。更には我が子への虐待も無かった。
そもそも結婚も出産もしていない。その彼女が何故か虐待を受け、虐待をしたことを語る。ラストシーンで舞台から他の出演者が消え、主役の彼女一人になった。その耐え難いほどの孤独と恐怖。それが、鐘下さんの言いたかった事なのか?私の中では、結局このお芝居は何だったのか、結論が出ていない。誰か教えて下さい。分からないから、適当に言っているわけではないですよ。それなりの根拠があります。
先ずは、舞台装置。どこかの部屋。窓もドアも無く壁には一面に子供の写真(写っている子は一人じゃないんじゃない?よくよく見ると複数いたりして。これは確認してません。)。そして床にはゴミ袋。古新聞の束。いくつかのダンボール。そして冷蔵庫。冷蔵庫の上にはくるくると回り光を反射するオブジェ。大体、どこから役者は出てくるんだ?不思議な舞台。その部屋が精神病院の病室、若しくは刑務所の一室に見えたんです。冷蔵庫があるので病室って線が有力。そして、唐突に始まる話。血だらけの若者。バットを持ち所在無げにうろうろする男性。座り込んで瞑想しているような初老の男性。舞台の中心にいる女性。いきなり始まります。何の説明も無いです。結果的には最後まで状況の説明は無かった。初老の男性が父親、バット持っていた男性が兄、血だらけの男性は見ず知らずの人。
ラストシーンでこの3人の男性は消えます。冷蔵庫から出て行きます。つまり、この三人は彼女の想像物。空想の産物。いたかもしれないけど、今現在はいない。そんな風に見えたので三つ目の解釈をしました。
そして、彼女が父親や息子と会話するシーンで「親子だったら話さなくても心が通じる・・・」って感じの会話をしてました。そこから二つ目の解釈をしました。順番が前後したのは先に三つ目を考えて、一つ目との間を埋めるために二つ目を考えたから。私の中では三つ目の話が一番怖い。人間の負の想像力の暗さが怖い。でも、多分二つ目が正解のような気がする。正解って言うのもおこがましいが、二つ目は怖い。一つ目の不幸より二つ目のほうが怖い。
そして、昨今起きている陰湿かつ、突発的な事件もこの二つ目のパターンが見受けられるような気がする。一つ目は、まだ何とか理解できる。でも、二つ目は理解できない。理解できないものは怖い。
いずれにしても怖い芝居でした。そんな芝居を引き受けた役者陣に拍手。そして、毎回掃除が大変だろうスタッフに拍手(壁も床も血だらけ。)。2/21まで上演してます。興味のある方は是非。因みに演劇初心者は観ない方がいいです。トラウマになるから。最後に主演の岡まゆみさんに拍手。彼女の娘、妹、母、女。様々な女性を、一人で2時間演じ続けられるタフさがこの芝居を支えていました。30台半ば以上の人には懐かしい人です。まんがはじめて物語のお姉さんです。