完読No.82 オリンピア ナチスの森で 沢木 耕太郎 著 集英社文庫


裏表紙

1936年8月、ナチス政権下のベルリンで第11回オリンピックが開催された。ヒトラーが開会を宣言し、ナチスがその威信を賭けて演出した。その大会を撮影し、記録映画の傑作『オリンピア』二部作を生み出した天才レニ・リーフェンシュタール。著者は彼女にインタビューを試みる・・・・。運命の大会に参加した日本選手団をはじめとする多くのアスリートたちの人生をたどる長編ノンフィクションの傑作。

以下ネタバレ
こういう本を読むと、沢木さんってうまいなぁ〜と思ってしまう。具体的に書くと長くなるから止めますが、単に文章がうまいとかそういう事じゃない。登場する選手達、競技、等の紹介の仕方がうまい。ある時は、選手のインタビューを書き、ある時はその当時の実況をおこし、ある時はその選手のバックボーンを書く。一つとして同じパターンが無い。ノンフィクションではあるが、事実の羅列ではない。かと言って、沢木さんの感想を書き綴っているのではない。主義主張を書いているのではない。その辺が非常にうまい。恐らく、同じ材料を他の作家に与えてもこうは書けないでしょう。
更に、この本を読むと沢木さんがジャーナリストではなくノンフィクションライターである事がよく分かる。特にレニに対するインタビューを読むと分かる。

私は当初、その二十三のカットのひとつひとつについてレニに質問していこうと思っていた。しかし、南のユニフォームの映像と、孫の裏返しの映像に対するレニの反応を見て、それがあまり意味のない行為だと理解した。
たぶん、彼女は本当に忘れているのだろう。彼女の明晰な話しぶりから記憶もまた鮮明なのだろうと思っていたが、その多くは失われていたのだ。無理もない。六十年も前のことなのだ。

何故ここが?ジャーナリストなら、事実を重視する。例え、今この瞬間に聞けなくても、間を置いて何度でもインタビューして疑問点を明らかにしていくでしょう。でも、沢木さんはやめるんです。今は老人になってしまった天才的な映像作家への優しさ、尊敬の念、だと私は思いました。