No.17 飛ぶ痛み キリンバズウカ 王子小劇場 

★★★★☆
以下ネタばれ
完全にネタばれしてます。これから観る方は飛ばしてください。




・設定。
痛みを飛ばした末期の患者達。痛みは無いが、余命あと僅か。集められた離島の施設。患者?に調査員が一人付く。院長はいるが、働かない。外との接触は荷物を船で運ぶ男性のみ。
ある日、医者がこの施設へ。男性の船に乗りたい。そこへ、見るからに体調が悪そうな女性。彼女も乗りたい。だが、船が狭くて一度には乗れない。どうしよう?有名な論理学の問題。これがエピローグ。
あとの話は、患者とその他の人々との関係性を切れ切れに、しかし連続して描いていく。SF風シュチュエーションコメディーな感じ、だが、実はちょっとホラー。
キリンバズウカは大阪の劇団(http://kirinba.seesaa.net/)。東京初進出。大阪の割りには、大阪くさくない。東京での公演だから、作風を変えた?出演者が、東京の劇団出身者(全員は知らないので、はっきりとは分かりません)。特に、出身を意識しなくてもいい。
・感想。
脚本が好みのタイプだったので、楽しく、興味深く観させてもらいました。
・役者。
元々が柿喰う客の七味さん目当てだった。彼女の役は、いつもと違い(ある意味同じかな?)、裏がありまくりの役で、クールな感じが非常に合っていた。演技力が(演技が上手いのが)、柿喰う客での出演より分かりやすく出ていた。そして、いつもは製作の田中さんも可愛いイタイ役で公演。「えへへへへ」と笑う笑い方が、哀しい。劇中で七味さんが田中さんに「嫌い」と言うシーンがあり。柿ファンはドキッとしたのでは?(しないって?)
他には、院長の役の人が、大学の時の同期に似ていて、ビックリ。確か、別の芝居で観た時もそう思ったはず。じっくり見ると全然似ていないのだが、雰囲気はそっくり。患者役の板倉チヒロさん。クロムでの印象より、客演の時の印象が深い。駄目だろそれやっちゃ!って事をやらせるとバッチリはまる。
想起された想い。
この芝居を観て想った事。他人の痛みを、本当の意味で自分が感じる事が出来たら?
例えば、苦しむ恋人の痛みを代わりに自分が受ける事に同意したら?私は、きっと耐えられないな。
よく「他人の痛みが分かる人間になれ!」なんて事を言う人がいるが、本当にそう思うか?本当に痛みを感じたら、どうなる?きっと耐えられないぜ。
この芝居は、裏でこの事を強烈に主張していたと思う。だから、表面的に受けた感じと、終演後にもう一度感じてみた時で、受ける印象(ダメージ)が全然違った。他の人の感想が聞いてみたい。結構、強烈なアンチテーゼを感じた。
・演技。
殆どの患者(痛みを他の人に飛ばしている人)は、飛んだ相手を知らない状況(自分が患者だと知らない人もいた)。その上で、ああして演技をするのは、かなり難しいのではないだろうか?本当は病気で余命わずか、痛みも耐えられないほど。でも、痛みは無い。そして、もうじき死ぬ。それを表現しろって言われても。
・脚本。
恋人の痛みを飛ばされる事を引き受けた女性が、痛みに耐えられず、恋人を殺しに来たり。カウンセラーに来た女性(おそらく自傷癖のある女性)の痛みを引き受けた医者が、自分が死のうと思った時、その女性も一緒に死ぬべきだと思って行動する。
それって愛?それぞれに事情はあるが、痛みって感情で抑えられないものなんだと。感じた。
・その他。
某有名ブログで、「その人に起こった痛みや苦しみが、分からない人が、理想論でものごとを言ってはいけないのではないか」(言い方は違うけど)と提起?発言?してた。確かにね。分からないもの。他人の痛みは分からないもの。それが何故か引っ掛かってしまい、昨日は3時に起きてしまった。普段より1時間早い(変わらないって?)。
でも、諦めたくはない。やっぱり、理想でも他人の痛みを分かりたい。範囲は狭いままだけどね。家族と友人限定。半径5mの理想。人の痛みを分かり少しでも軽減してあげたい。そう思わせてくれたこの芝居に別で★一つ。