No.33 わが闘争 THE・ガジラ BIG TREE THEATER

★★★★★
http://blog.eplus.co.jp/gazira/
星5つ付けたが、これを他人に観ろと勧めるかどうか?多分勧めない。
池袋に、こんないい劇場があるとは知らなかった。客層はかなり変わっていた。老人と呼べるほど年配の方々が多く見受けられた。それも最前列に。あとは私ぐらいの男性一人客。30代のカップル。若い男女は殆どいなかった。
舞台装置は単純。じゃりが一面に敷いてある。その上に方形の板(厚さ20cmぐらい)。床の様。そして机と椅子が9組(3列X3列)。後で分かるが、教室です。木の机と椅子(ギーギー音がする)
以下ネタバレ
かすかに聞える子供達の声で舞台が始まる。その声が徐々に大きくなる。何かの童謡?手まり唄?感情のこもらない子供の声って不気味。それだけで舞台がピリッと締まる。暗転後、5人の男女が椅子に座っている。暫く、無言。舞台上の人々も息苦しそう。見ているこちらも息苦しい。ギーギーという椅子の音で皆の緊張感が和らぐ。しかし、一体何が始まるの?全く分からない。徐々に明らかにされてくるこの状況。
その5人はそれぞれ刑事二人(定年間近の初老の男と若い男)、殺された女性の旦那、殺された女性の兄、その兄の妻。そしてここにはいない加害者(タミオ)は被害者の兄の妻の弟。タミオは実際にはいないが、舞台上で学生服を着てウロウロしている。これがかなり不気味。見た目はおっさん、おじいさん。なのに学生服。剃髪して眉毛も剃っている感じ。
犯人がハッキリしているのに集められた3人。お通夜が始まっているのに主要な人物がここにいていいの?焦る3人。刑事の意図は何?3人の疑心暗鬼と観客の?がシンクロする。そして精神的な拷問ともいえる尋問が始まる。観客席に老人が多かったので死人が出るんじゃないかと心配した。リアルで嫌〜な気持ちになるやり取り。その尋問の過程で明らかにされる、3人の恥部。そして被害者と加害者の恥部。隠している事をほじくり返す、無神経とも思える、しかし、計算された刑事の尋問(拷問)。
当然のことながらそれは3人に向けられている。観客はあくまでも傍観者。ここははっきり分かれてます。まるで自分が尋問されているような気持ちになる、って言う感想は無いです。あくまでも観客は観客。そして徐々に明らかになる真相。乱暴なだけだと思っていた刑事の尋問が実に緻密だった事が判明する。尋問は主に初老の刑事が担当。この刑事役の男優さんが上手い。小林勝也さん、文学座の所属だそうです。流石、文学座。コンビを組む、そしてあまり仲の良くない若い刑事。亀田佳明さん、この方も文学座。小劇場対文学座という構図?(これは妄想)
タミオ(字は分かりません)役の高田恵篤さん。この人が物凄くいい味を出していた。最初はただウロウロしているだけだったが、最後の方の爆発と踊り、舞踏は圧巻。肉体がリアルだった。被害者の兄役の斎藤渉さん。この地の名家藤堂家の長男。高校(女子高)教師、演劇部顧問。そして、女子高校生が大好き。家畜人ヤプーブルセラショップ)の常連。この役はかなり難しい役だと思った。胸に一物も二物も持ちながら、表面上は真面目な教師として生活。本音はロリコン。でも、生には手を出さない。ほんと?被害者の夫役の山崎清介さん、初めて見るけどいい役者さん。藤堂家の娘と結婚したが、妻は男癖が悪い。妊娠中だが、誰の子か分かったもんじゃない。若しかして、彼がタミオに殺害を依頼したの?爪を噛む癖がある。初老の刑事は何故かこの癖に過剰反応。最後に今回の座長。加害者の姉役の剣幸さん。宝塚出身の女優さんなのでもっと華やかな役だと思っていました。物凄く、嫌な役です。彼ら姉弟タツミの一族。第二次大戦中、タツミの村は別の神を祀っていたために国に目を付けられていた。それに乗じた藤堂家が村民をけしかけタツミを惨殺する。この姉弟はその生き残りの末裔。タツミと藤堂は因縁の仲。その藤堂家に嫁に行った姉。それを許せない弟。そういうバックボーンもあります。人物紹介ついでに背景も少し書きましたが、肝心な事は書いてません。兎に角、人間関係が濃密でぐちゃぐちゃです。そうそう、チラシによると「津山事件」をモチーフにしているそうです。色んな人が使ってますからご存知の方も多いと思います。そういう状況が好きな方は是非ご覧下さい。10/29までやってます。10/23の夜公演と10/26の夜公演後はトークセッションがあります。鐘下辰夫さんは作品を観た後に話を聞くと、本当にこの人が作・演出なの?と疑いたくなるほど明るい人です。質問にも丁寧に答えるので興味のある方は是非この二日に。何だか、THE・ガジラの宣伝になってしまったな。そうそう、終演後劇場から出たら、急に雨が降り出した。まるでタミオの祈りが竜神様に通じた様な気がした。
評価されるかどうかは別にして、傑作、快作である事は間違いないです。作者の意図や細かいやり取りはわざと書いてません。動機はどうでもいいから(劇中の初老の刑事の台詞)。本当に嫌な気持ちにさせる芝居ですが、終演後何故か爽やかです。これは私だけの感想ではないはず。たぶん。
トークセッションの回に行く方で、たまたまこのブログを見た方にお願い。
鐘下さんにタイトルを「わが闘争」にした理由を聞いて下さい。そして理由を教えて下さい。
内容的には有名な「わが闘争」とは関係があるようには感じられなかった。
タツミの姉の闘争?タミオの闘争?それとも藤堂家の闘争?登場人物全員の闘争?