完読No.58 第三の時効 横山 秀夫 著 集英社文庫


今まで何冊か横山秀夫さんの本を読んできた。私はこの本がベストだと思う。短編推理小説としてはこれ以上の本は書けないでしょう。中でも、表題作でもある「第三の時効」は素晴らしい。私の中ではベスト短編推理小説
以下ネタバレ
今までの短編小説は誰か中心となる人物が居て、その人物の考えを通じて事件や人間を捉えている部分があった。この短編集では特定の誰、というのは居ない。F県警の強行の3班と課長と部長がいるだけ。各3班は筋金入りの刑事たち。3人の班長はそれぞれ個性的。でも、誰一人として友達にはなりたくない。その人物を魅力的に描こうなんてまったく思っていなかったんじゃないだろうか?それほど強烈。特に2班の班長は「女性に恨みでもあるのか?」と周りに思われるほど女性に冷酷。各班長の肉声(心の声)を出す代わりに、部下や上司の肉声を盛り込んでいる。そして、事件の裏にある人間の本質的な闇を客観的な筆致である意味冷酷に描いている。そこに愛情は感じられない。勿論、犯罪者に愛情を感じる必要はないのだが、2時間ドラマなんかにありがちなホトケの何某的な人物は登場しない。あくまでも、犯罪を憎み事件を解決するためにのみ存在する捜査官たちの姿を描いている。しかも、謎の部分もおろそかになっていない。ミステリーファンをも満足させられる謎を提供している。その意味でベスト。あえて事実(真実ではない)を書き重ねていくことによりその事件の本質に迫る。元新聞記者の横山氏ならではの作品だと思う。横山小説の完成をここに見た気がした。後味は決して良くないが、うまいと唸らせられる。横山さんのファンで、まだ読んでない人はすぐに読むべき。