完読No.69 殺人の門 東野 圭吾 著 角川文庫


裏表紙

「倉持修を殺そう」と思ったのはいつからだろう。悪魔の如きあの男のせいで、私の人生は狂わされてきた。そして数多くの人間が不幸になった。あいつだけは生かしておいてはならない。でも、私には殺すことができないのだ。殺人者になるために、私に欠けているものはいったい何なのだろうか?人が人を殺すという行為は如何なることか。直木賞作家が描く、「憎悪」と「殺意」の一大叙事詩。解説・北上次郎

読後感は最悪に近い。でも、それはこの本が優れている証拠でしかない。凄い作品だ。しかし、人には勧めないかもしれない。
以下ネタバレ
主人公は田島和幸。彼の少年時代から大人になるまでを淡々と書いています。特に心躍らせる事が起こる訳でもないし、難解なトリックが出現するわけでもありません。でも、この本は優れたミステリーです。いや、もはやミステリーの範疇を超えて文学だ。一人の人間が殺意を抱きそれを・・・・・。その過程を克明に描いています。そこには悪趣味なほど、他人の生活が描かれています。彼自身はそれ程魅力的な人物ではないので、単純に倉持修に対して読者は敵意を抱かないんじゃないだろうか?確かに倉持修は田島和幸を騙し、利用し、尚且つおとしめようとしている。それでも尚、倉持は田島に対して友情を感じていると思われる。そしてそれは田島にも言える。何がトリガーになったか?それは当然書けませんが、敢えて言えば蓄積。そしてもっとうがった見方をすればああしたのは愛。これは最後まで読まないと意味が分からないと思います。兎に角、倉持に騙され続ける田島に対して、どうして?何度も騙されるの?と不思議になります。大きなトリックで読者にカタルシスを与える本もいいけど、こう言う一人の人物の心理の、人生の移り変わりをじっくりと描く本も面白い。読後感が悪いのは、この田島にどこか自分にも通じるお人好し感を感じるからでしょう。私は幸運にしてこう言う変な友人はいないので不幸にはなってませんが、人生のどこかで倉持修に会っていたら、間違いなく騙されてます。